【文芸日記】#7  30分小説の紹介文芸研究会

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こんにちは


今回は前回の30分小説の作品をご紹介します。

 『伊達巻』
                                                  小麦

 「ねぇ、お母さん。伊達巻ってなんで伊達巻っていうの?」

 「そうねぇ……

 「政宗様、政宗様!」

 屋敷に青年の声が響く。青年は足音を荒立てながら廊下を歩いていた。

 「すまない、政宗様を見かけなかったか」

 「い、いえっ」

 青年に声をかけられた女中が顔を青ざめながら答えた。

 それもそのはず。彼の顔は鬼もはだしで逃げ出すほどの恐ろしい顔つきになっていたのだから。

 「まったく、政宗様はいったいどちらに行かれたのか……」
 
 女中が逃げるように去った後、青年はため息をはきながら庭を見た。

 ふと、彼の目線が止まった。

 庭の岩のかげになにやら黒いものが出ていた。それはいつも彼の方が身に着けている羽織のような。

 「……政宗様」

 恐ろしいほどの低い声にかげはびくりとふるえた。おそるおそるといったように顔を出したのは、まだ若い隻眼の青年。

 「政宗様、このような所で何をしていらしたのですか」

 青年の呆れを含んだ声に、隻眼は再度肩をゆらし、「ゆ、雪を見ていたんだよ」と答えた。

 「ほう、このような寒空の下、温かい執務室からわざわざ抜け出し、外着に着がえて人目をさけるように門に向かいながら雪を見ていたということですね」

 青年の言葉に隻眼はぴしりと体の動きが止まる。

 数秒見詰め合っていたが、隻眼は青年に背を向け、門まで一直線に走った。

 青年はため息を吐き「鬼庭」とだけ呟いた。

 数拍後、一人の家臣が隻眼を簀巻にして持ってきた。青年は礼を言ってうけとると、簀巻の隻眼をかかえてきた道をひき返していった。

 「おい、お前たち! 一国の主にこのような処遇をして許されると思っているのか!」

 「政宗様が執務をなさらないことがそもそもの始まりでしょう。さあ、戻りますよ」

 「断る! もう一月も屋敷から出ていないんだぞ! 少しくらい休暇を……」

 「もう十二分にしたでしょう。ご安心ください、あと二月ほど執務を行えば粗方かたがつくでしょう。それまでこの影綱、心を鬼にする所存でございます」

 「た、たったすけてくれー!!」

 …という話が伊達巻の由来よ。アイちゃんも簀巻にされたくなかったら、宿題はちゃんと終わらせるのよ」

 「はーい」

                                                         終わり