学長ブログ

2017年10月の記事

17. 「大学」、連携協定

知の拠点: 中部大学は知の拠点、学びの拠点として、学生・教職員をはじめとしていろいろな人々と結びついています。大学は地域の人々にとっても、開かれた知の宝庫であり、人類の英知が蓄えられているところでもあります。数年前にスウェーデンにある、15世紀に創設された北欧で最古の、ウプサラ大学を訪れた時に、大学が街の中に溶け込んでいるようで、大学とコミュニティの一体感を感じました。それは私が住んでいたテキサスの大学と街との一体感に通じるところがありました。今日は、これからの大学や高等教育を考えるに当たって、大学制度の歴史的なことに思いを巡らせてみます。それというのも我々は9月に3つの連携協定を結んだからです。

University:  universityという言葉は、ラテン語のuniversitus(ウニベルシタス)からきており、一つの組織としての学びのギルド(guild of learners)を意味していました。11世紀末に創設されたイタリアのボローニヤ大学は、町と教会によって認可された学生による大学で、学生団体が教師を雇用していました。学長(組織の長)も学生のリーダーがなり、レクトル(Rector)と呼ばれました。さらにuniversityの言葉のルーツuniverse、ラテン語の"universum" [ウニベルスム、unus(one)+vertere(to turn)]は一つになる(turn into one)あるいは全部ひっくるめて(all taken together)という意味で、宇宙を表しています。universityがめざしたものは、職業訓練の場というより、体系だった学問を学ぶ高等教育を実施するところでした。

大学制度: 日本には7世紀の天智天皇のころ、唐の制度を取り入れて、官僚育成機関として作られた大学寮というものがありました。さらに平安もしくは室町時代に創設されたと考えられる日本最古の学校、足利学校は16世紀にフランシスコ・ザビエルにより「坂東の大学」として紹介されています。現在の日本の大学制度は明治維新の頃にヨーロッパの教育制度を取り入れて作られたもので、ヨーロッパの教育の最高学府の制度を取り入れたときに、大学という名前が使われたようです。さらに、第2次世界大戦後にアメリカの制度が取り入れられて、日本独特の大学制度が作られていきました。

大学の発祥: そこで、いま全国で教育改革が進行するとき、ヨーロッパにおける大学の発祥の原点に戻って、大学のあるべき姿を考えてみることは意味のあることに思えます。人間の叡智が作り上げた学問体系つまり知の体系に接することができて、学ぶ者個人にとって何が問題であるのか、ひいては人間にとって何が問題であるのか、という問いに学ぶ者自ら答えを見いだすきっかけを与えてくれるところが、ヨーロッパの大学でした。中世ヨーロッパの大学にあった共通の4つの基本科目は、神学、法学、医学、リベラルアーツです。そしてリベラルアーツはさらに三学(トリビアム(trivium); 文法grammar、修辞rhetoric、論理dialectic)と四学(クアドリビアム(quadrivium); 算術、幾何、音楽、天文)の7つの科目構成となっていました。リベラルアーツの三学をみてみると、文法は言葉の使い方、修辞は説得力ある文章の作り方、論理は会話の中で論理的な議論をすることを表していることを考えると、三学はまさに、現代で強調するところのコミュニケーション能力といえるでしょう。そして四学は社会人として必要な知識・学問ということになるでしょう。こうした科目構成はギリシャ自然哲学の流れをくむもので、16世紀に、画家ラファエロがバチカン宮殿の署名の間の壁に描いた「アテネの学堂」からもうかがえます。そこには、哲学者プラトンとアリストテレスを中心に、両脇に音楽の神アポロンと、知恵の神アテナの彫像を配し、算術・幾何のピタゴラス、ユークリッド、天文のプトレマイオスはじめ多くの自然哲学者が描かれていて、知の体系を作り出した源を感じるところです。

Education:  大学における教育は、education【e(ex、out of)+duc(lead)】の言葉が示すように、語源的には引き出す、つまり個人の潜在能力を引き出すことであり、必ずしも、決められた望ましいと考えられる目標の姿に働きかけることではないでしょう。Educationの訳として使われた「教育」という言葉で理解されていたのは、人間には望ましい、こうあるべきという設定された姿があり、それに向かって人間を枠にはめていくという考え方であったように思えます。大学はeducation(個人の能力を引き出すプロセス)を通して、人格形成をする場であり、training(目的に向かって訓練するプロセス)を主とする場とは異なっています。大学で学ぶものは専門的知識そのものというより、物事を包括的に見て、その中で人間を豊かにし、人間性を高貴なものとするために、その専門的な知識が、いかに使われるべきかを考えることができる教養だと思われます。大学での教育の成果は、学業の成績が上がるかどうかより、学びを修めた一人一人が、その後の人生や生き方において、大きな影響を与えることができるかにかかっていると言っていいでしょう。一人ひとりの生き方が自分自身で見えてくれば、社会に出て活躍できる準備ができたと言うことになるでしょう。

社会の変化: ヨーロッパでは、16世紀から17世紀にかけて、コペルニクス(1473-1543、クラクフ大学、ボローニャ大学、パドヴァ大学、フェラーラ大学)、ガリレオ(1564-1642、ピサ大学、パドヴァ大学)、ニュートン(1642-1727、ケンブリッジ大学)に代表される科学革命と、その後に起こる産業革命は社会に大きな影響を与えました。大陸ヨーロッパでは大学での学びは、実践よりも学問色が強かったわけですが、15世紀初頭に創設されたスコットランドの大学では実学教育が重んじられており、18世紀には経済学者『国富論』のアダム・スミスや蒸気機関のジェームズ・ワットが、大学から育っています。近代化を急ぐ明治政府は、実学を重んじるスコットランドの教育制度を取り入れたのです。その後大学における専門分野は、人文科学、社会科学、自然科学をはじめとして、広がりを持ち、日本においても、また世界においても大学の数は拡大してきました。人間にとって何が問題であるのか、という根源的な問いをするところの大学が、ややもすると技術的、職業的な知識体系だけを教える場となる恐れも出てきました。ヨーロッパで大学が誕生してから900年経ったこともあって、欧州の大学教育の見直しが行われ、1999年にボローニャ宣言が出され、欧州高等教育圏の形成を目指し、欧州連合の中での大学間の連携が始まりました。音程を決められた高さに合わせるときや、ラジオの周波数を合わせるときなどに使われるチューニング(tuning、調律、同調)と言う言葉で、ヨーロッパ各国の高等教育システムの互換性が図られています。現在も進行中のそのプロセスで興味深いことは、個別の教育プログラムの有効性や必要性について、ステークホルダー(stakeholder、利害関係者)との協議に基づいて検証することがうたわれていることです。チューニングにより大学間のつながりが生まれ、その動きは南北アメリカ、ロシアなどでも広がっています。

中部大学: 中部大学では、キャンパスが学びと文化の中心となり、学生、教職員そして地域の人々が交流を通して、ともに人間的に育っていく、そんな教育空間を作り上げたいと思っています。中部大学にとってのステークホルダーは学生・教職員・卒業生・保護者・校友(寄付者など大学の未来に関心を寄せる人々)、そして入学を考える生徒ということになるでしょう。中部大学ファミリーとして、卒業生の同窓会組織や保護者の後援会組織が、活動しています。7学部6研究科をもつ春日井キャンパスでは、専門を超えて学ぶ者が交差する空間があります。チューニングによって、他大学との行き来が盛んになり、学ぶものの教育空間の場が広がります。チューニングと言う概念を大学間から、社会と大学の関係にまで広げると、それは社会が必要とする学生を育てる教育環境を、われわれが作っているかを問うことであります。そこで、中部大学では、学ぶものの持てる才能を引き出すために、知の拠点としての学内における専門家集団を超えて、学外にも、あらゆる機会を捉えて、地域社会、世界に連携を求めています。つまり、様々な形で、大学以外のコミュニティとの連携を進めているのです。ステークホルダーとの協議を進め、教育改革を進めていくつもりです。

夏休み明けの9月は連携の動きが続きました。名古屋銀行と中部大学は、人材交流と地域経済に関する情報交換を通して、学生を巻き込んで地方の活性化を図ろう、地方創生の諸課題にともに取り組もうということで、協定を結びました(写真1)。

愛知学院大学と、教育研究及び社会貢献活動の分野で包括的に協力関係を築き、学びの世界を広げるために大学間連携に関する包括的協定を締結しました。中部地域における1万人を超える学生を抱えた二つの大学が連携することにより、学生・教職員の学びの教育環境を大幅に広げることができることを期待しています(写真2)。

春日井市に隣接する豊山町と連携・協力に関する協定を結びました。すでに春日井市とは協定を結び、様々な地域連携の活動がおこなわれており、それを今度は豊山町にも広げようというものです。豊山町には航空宇宙関連の企業、空港もあります。中部大学では来年、宇宙航空理工学科が開設されることもあり、様々な交流を期待しています(写真3)。

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(1)名古屋銀行の藤原一朗頭取と協定書に署名
(2)愛知学院大学の佐藤悦成学長と協定書に署名
(3)愛知県西春日井郡豊山町の服部正樹町長と協定書に署名

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