*この記事を読む前に、6日に投稿されたものを読むことを推奨します
第3位の作品
テーマは『キーゼルバッハ』
聞きなれない単語です
どうやら鼻に関係する言葉のようですが…
キーゼルバッハ 茶神
「勝利を祝して!」
「「乾杯!!」」
食堂から響くグラスの音。私はそれを背に受けながら、一人通路を歩いていた。
騒がしい酒の席。嫌いなわけではない。しかしどうにも気分が乗らない。何故か、単純だ。
(快勝とは言い難い……)
多くの犠牲を払った。今もベッドの上で苦しむ戦友が大勢いる。それを酒で忘れるなど、私には、例え一瞬といえどもできなかった。だから、
「少佐、どうしてこちらに!?」
飲むならば、その傷ついた戦友達と共にしたいと、そう思ったのだ。
「なに、差し入れだ。せっかくの祝いの席だというのに、お前たちが蚊帳の外にいると思うと、どうもな」
「そんな我らのことなど……いえ。お心遣い、深く感謝いたします」
腕を吊った戦友の返礼を微笑で受け止め、室内を見渡す。
顔半分を包帯で覆われている者、四肢のいずれかを欠損している者、未だ意識のない者。それぞれが、それぞれの代償を抱えて、祝いの席ではなくここにいる。満足な治療も受けられない、この部屋に。
「ドクター、ここにいる者たちの搬送はいつになる?」
汚れに汚れた白衣を着たドクターは、マスク越しに、
「今こちらに搬送者が向かっています。もう数時間で到着するかと」
「そうか。なら私が応対しよう」
「いえ、そんな少佐殿がするようなことでは!」
「手持無沙汰なんだ、気にするな」
手に持った差し入れの果物を近くのテーブルに置き、搬入口へ向かおうと踵を返す。
その時、ふとうめき声が聞こえた。
「キ……ゼ……ル、バッ……ハ……」
両目を包帯で覆った男が、ベッドの上で絞り出すような声を上げていた。
「彼は?」
「最前線の生き残りです」
「ああ……」
それならば、うなされていても仕方ない。
相手方。その最前線で、常にわが軍を喰らってきた、名も知らぬ化物。唯一判明している性別から、我が軍が「あの女」と呼ぶそれと、真正面から対峙したのだから。
「ゆっくりと静養がとれるよう、私から口をきいておこう。勿論、他の者たちも含めてな」
「ありがとうございます!」
医者の例を皮切りに飛んでくる礼に手を振り、私は今度こそ搬入口に向かった。
(キーゼル、バッハ?)
確か、鼻の一部の総称だったと思うが、彼が言いたかったのはこれではない。そこに幾つかの文字を足してようやく、彼の伝えたいことが判明するだろう。何にせよ、すべてが終わったら聞いてみようと思う。
考えている内に、搬入口に着く。物見櫓に登ると、遠くに光が見えた。車のライトだ。双眼鏡を覗くと、我が軍のエンブレムが見える。救済者の接近に、無意識に頬が緩む。
爆炎は、その救済者から上がった。
「な……!?」
一瞬の硬直の後に、私は慌てて双眼鏡を覗いた。
炎を背負った「あの女」がいた。
キ……ゼ……ル、バッ…ハ……
――Kill them all.But her...
(奴らはすべて殺した。なのにあの女の……)
終わり方がかっこよすぎる
明日と明後日は同率一位の作品になります
お楽しみに…
コメント ( 4 )
さすが茶神先生や…これを上回る物があるなんて信じられん…
日時: 2011年04月10日
一年生です。初コメっす!
30分小説楽しいですねー
自分の文才に泣きそうでしたが笑
日時: 2011年04月10日
無茶ぶりをされたらどうすればいいかって?
ぶん投げればいいんだよ♪
※よい子は真似しないでね!
聞いた感想の大半が「頑張ったな!」
皆の優しさに、思わず涙があふれそうで御座います。
そういえば一位作品、その片方の作者は……おっと、誰か来たようだ。
日時: 2011年04月10日
30分小説の無茶ぶりほど文才が試されるものはないと思ってます。
日時: 2011年04月12日