合宿での30分小説
1回目の最優秀作品です
今回テーマを「夏休み」とし、
その中からお題を集めました
それではどうぞ
金魚すくい 作:ねこねこわんこ(3年生)
ひんやりと冷たい世界を、私は自由に行く。
寒いと感じることのない、心地良い世界だ。
息苦しくもなく、私は自由に世界を旅することができる。
世界にはいろいろなものがいた。見目がいいもの、色鮮やかのもの、色黒なもの。顔の形が醜いもの。
それぞれがこの世界にいるものであり、私と同じく世界を自由に旅している。
時には互いに争うこともあったが、私たちはそれぞれが穏やかに、自由を愛しながら過ごしていた。
だがそんな私たちの世界にも災いが訪れる。
自由に旅する私たちを、何か大きな影が追いかけてくるのだ。
白く丸いそれは抵抗すればどうにか逃れることができるのだが、その後すぐに別の影が追いかけてくる。
最終的にはその影にさらわれ、二度と帰ってこれなくなるのだ。正体不明のそれは一夜の内に何度もやってきては、次々とこの世界のものたちをさらっていく。
私は恐ろしくなって逃げた。何度も何度も逃げのびて、他のものたちがさらわれるのを尻目に、私は逃げていく。
(怖い)逃げなくては…… (怖い)捕まりたくない…… (怖い)ごめんなさい…… (怖い)誰か助けて!
悲痛な叫びも虚しく、私はついに影に捕まってしまった。意外と柔らかな白に体を持ち上げられ、世界を上へ上へ。
ほどなくしてあれほど優しく心地よかった世界の冷たさが消え、息苦しく熱い何かが私の体を包み込んだ。
体が勝手に震え始め、思うように頭が働かない。
(ああ……私は死ぬのか)
最後に浮かんだのはそんな漠然とした死への恐怖だった。
そして死について深く思考が働く前に、私の意識は闇へ沈んだ。
突然身を包んだ懐かしい冷たさに、私の意識は一気に覚醒した。
不意打ちの冷たさに私の体は震え、息苦しさから解放された私は自らの意思で体を動かしてみる。
そこは今までいた世界と全く同じ世界だった。
違うのは、前の世界と比べ旅ができる程広くないということだけ。
少しでも体を動かせば端まで辿りついてしまうようなせまい世界。
そしてその世界は端から伝わる振動で何度か震え、私の耳に意味のわからない音を響かせる。
『おかーさん! ほらみて、きんぎょさんとれたよ!』
『あら上手ねぇ。でもちゃんとお世話できないなら返さなきゃだめよ?』
『ぼく、ちゃんとおせわできるよ! だからねぇ、いいでしょ、おかーさん?』
振動が伝える音が何を意味するのか。私にはよくわからなかった。
そしてそんな私を責めるかのように、私の体はさらに狭く揺れ動く世界移され、運ばれていく。
そうして辿りついたのは広い世界だった。
最初にいた世界よりにはせまいものの、私ひとりには十分すぎるほど広い世界。
以来、私はずっとその世界を旅し続けた。広く、冷たく、食事にも困らないいい世界だったが、私は一生寂しさをぬぐえなかった。
コメント ( 4 )
なんというか、「テーマが前提、タイトルが前提として読むと作品」の良い礼だと思いました。
良い話なのに、でも切ない感じがきれいでいいですよね。
日時: 2011年09月11日
綺麗な作品だね。
個人的にとても好きな部類だ。
日時: 2011年09月11日
いつか部長をやっていたいちどめしというモノです。気まぐれで覗きに来ました。ブログの更新がマメで頭が下がる思いをしつつ……まだ、30分小説をやっているとは……と感慨深い気持ちでいっぱいだったりそうでもなかったり。
後輩の作風は現在どうなっているかなあ、とか、いつぞやのリレー小説(現部長さんが知るよしもない)はさすがに完成したのかなあ、とかいう思いを引きずる古の時代の亡霊ではありますが、とりあえず、学際に向けてがんばって、とエールを送らせていただきます。
ついでに『金魚すくい』について一言。
死への恐怖が「浮かん」で、意識が闇へと「沈」むという対となる表現の使用が、水の中という舞台との相乗効果もあって、光っているね。
日時: 2011年09月11日
どうも、ご紹介に預りましたねこねこわんこ(残念生)です。
この作品は本当にお題を貰った瞬間に思い浮かんだ文章をサラサラっと書いただけなので、まさか一番の投票数をいただくとは思いもしませんでした。
僕ごときの作品以外にも多種多様な良い作品があった中、僭越にも選んでいただいたことをとても光栄に思います。
ちょっと場を借りてコメント返しでも(いいのかな?)
>捌限
まあ、どこまでも金魚すくいの話でしかないからね。
普通に金魚すくいをさせたのでは物足りないなと思ったので、逆転させてすくわれる側を書いてみたのです。
一匹だけすくわれた金魚は、広い水槽の中で大きく育つけど、結局孤独に死んでいくのよ。
>毛糸さん
綺麗……なのかなぁ?
個人的にはあまり書かない感じの作品だから、ちょっと自分でもよくわかってなかったりする。
気に入ってくれたなら幸いだよ。
>いちどめし先輩
えーっと、お会いしたことありましたっけ?(汗)
何にせよ、ご指摘いただいた部分はぶっちゃけると偶然です。自然な表現を考えてただ熱中して書いたので、水中であることとかがもたらす相乗効果は今言われて初めて気づきました。(苦笑)
なのであまり褒められるような作品ではありませんが、お褒めいただきありがとうございました。
以上、この場を借りて。
長々とおじゃましましたー。
日時: 2011年09月13日