【文芸日記】#8 30分小説の紹介・続文芸研究会

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みなさんこんにちは

今回も30分小説の紹介をします。

『福袋』
                                                    中澤貴史

駅前のデパートには多くの人が並んでおり、その列は、非常に長く連なっていて、建物を取り囲むほどのものだった。

「いつから、並んでいるんですか?」

 テレビ局のリポーターは列の最前列に並んでいる男にマイクを向けて、質問をしたのだった。

「ええと……半年くらい前から、並んでいますね」

 それを聞いたリポーターは驚きを隠せなかったようで、思わずその理由を問う。

「は、半年……ですか? どうして、そんなにも前から待っているのでしょうか?」

「どうしてって、そりゃ、福袋には幸福がつまってるからでしょ」

と、男は当然のことのように言った。リポーターは男の背後にある小さなテントを見て、一時は怪訝な顔をしたものの、男の先ほどの発言を思い出して、納得をしたようだった。そして、二番目に並んでいる人にも、三番目にも最前列の男と同じ質問をしたが、返ってくる答えは、同じようなものであった。

“福袋には幸福がつまっている”

 たてつづけに同じような返答が返ってきたので、その福袋の中身がどんなものなのか知りたくなり、そのリポーターは三番目に並んでいる人に訊いてみたところ、

「大企業の内定ですよ」

と、安著に満ちあふれた表情をしていたのだった。