【文芸日記】#27 リレー小説「コンプレックス」文芸研究会

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ずいぶんと遅くなってしまって申し訳ありません。

今回は前回のリレーの優秀作品「コンプレックス」を紹介します。

行が空いているところは人が交代したところです。

ベッドで横になっている。今日は、夏補習だった。今日の内容は是非とも受けておきたかった。
朝起きると視点が定まらず、頭が沸騰したやかんのように熱い。
ドアを開け、階段を下り、リビングに入る。たったそれだけの作業にだいぶ時間を使った。風邪をひいたなんて認めたくなかった。
だが、テストで0点を取るような弟に言われてしまった。
「兄ちゃん、顔赤いよ。風邪ひいたでしょ」
弟は何気なくそう言った。弟は朝食を食べ終え、元気に学校へ向かった。
そして親にも補習に行くことをとがめられ、今ベッドに横になっていた。


いつ頃からかはわからないが僕は弟を目の敵にしていた。
年が一つしか違わないため、僕が生まれてから間もなく親の愛情が弟に流れてしまったというのもあるが、あいつはいつも僕をバカにする。
運動に関しては弟の方が格段に上だ。その分勉強を頑張っても、あいつの中で学校の成績とスポーツの成績は別物らしく、僕がどれだけいい点を取って見せても何も動じない。自分の苦手なものは棚に上げ、得意なものだけを武器にあげる。


僕が腹を立てていると、親はいつも呆れた顔をする。そういう子だから。こんなに怒っても。その態度が僕を更に苛立たせ、弟への憎しみに近い感情は強まっていった。
なんで僕だけこんなに苦しいんだ。あいつはいつもヘラヘラして、なんで僕を怒らせようとする。なんでなんでなんで......。
ふと気が付くと、時計は2時半を示していた。いつの間にか眠っていた。ついでに泣いていた。
上体を起こすと、少し頭がくらくらする。でも、かなり楽になった。
不快なほどに汗をかいていたので、下着まで着替える。勉強机に置かれていたスポーツドリンクを飲んで、また寝ようとして、やめた。
自分の部屋を出て、すぐ隣の部屋に入る。弟の部屋だ。
別にいたずらをしようという訳じゃない。入ったとわかれば、弟は親を泣かせるほどに怒り狂う。ただ、さぐってみたかっただけだ。
お前は知らないだろうが、僕はお前のこんな秘密まで知っているんだ。
そういう優越感があれば、もう少し接するのも楽になるだろう。
本棚とか、クローゼットとか、定番のベッドの下なんかも見て、それだけでなかなか満足だった。特別なものがなくても。


ふと机の引き出しを開けてみた。一冊のノートが置いてあった。
かなり古びていてくたびれている。なんだろうこれは。
何気なくパラパラと中をめくってみる。それは自分でも忘れていた、僕と弟の交換ノートだった。まだ、弟と仲が良かった頃お互いに今日の出来事をノートに書いていた。
それを読むと、今日、公園のブランコに乗っただとか体育のかけっこで1位になったとか他愛ないようなことばかりだ。自然と顔に笑みが出る。
なんで、弟を目の敵にしていたんだろう。そう、自分に問いかけてみた。
いつもヘラヘラしていて僕が怒ることばかりする。コンプレックスというやつだろうか。
その時ひらりとノートからうすいものが落ちてきた。拾って見てみると写真だ。
幼い頃の僕と弟。二人ともとても仲が良さそうで満面の笑みを浮かべていた。
くったくのない本当に晴れやかな顔。こんなに仲が良かったのに。どうして。
ふとある出来事を思い出した。僕がまだ小学生の時だった。リビングで本を読んでいると弟が近よえ何をしているか聞いてきた。本を見せてやると弟は目を丸くした。
「兄ちゃんすごいねっ!!こんな本読めるなんてっ。」
その時の弟は、本当にきらきらした目をして見上げていた。そして、僕も、
「テツだってすごいじゃんかっ!!運動会のかけっこで1位だったろっ!!」
僕も負けじと弟の良いところを褒めるやる。あっ!そうか。そうだったんだ。
僕はいつからか弟にできて僕にできないことを妬んでいたんだ。
昔は純粋にお互いのことをすごいよって言っていたのに、僕が妬んだからあいつも僕のこと嫌いになるに決まってる。
そんなことで弟を嫌って妬んでいたんだ。
「......。」
ぱたんとノートを閉じてもとあったところに戻しておいた。
もしかして弟が残していたのは......。
なんだか、風邪のだるさがすっと消えていくような感じがした。