【文芸日記】#33 30分小説の紹介文芸研究会

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こんにちは

今回は以前お話した1年生の30分小説を紹介します

「傘」 神鉈悠

傘と言ってもいろいろな種類がある。例えば雨傘や日傘がそれになるだろう。

時にそれは子供が持つとライフルになったり、剣になる。そしてよく盗まれたりなくしたりする。

それが傘だ。そしてそれは時に思い出が詰まっている。

ここに少女が居る。名前はわからない。彼女は男性と一緒に傘をさしている、いわゆる「相合い傘」と呼ばれるものだ。二人は若い。

男の方は白色の制服に白の帽子を身につけ、キレイに背筋をのばして歩いている。女の子の方はセーラー服に下はダボついたズボンをつけている。

いわゆるモンペだ。

お察しのとおり、二人は恋仲で男は軍人で女は学生だ。

「来年、来年には帰国する。きっとだ。今日のような6月の梅雨の日に一緒に傘に入ろう。」男の言葉に少女はうなずいた。


それから1年、2年、3年すぎた。男は帰ってこなかった。戦争は終わった。それでも帰ってはこなかった。

戦争の終わった次の年の6月の雨の日に男は帰ってきた。少女はもう大人の女になっていた。二人は約束通りに相合い傘をした。

男は言った。

「言っただろう?戻って、帰って来ると。」

女はうなずき「信じていました。」と答える。

すると男は「その信じる心が私をここまで連れてきたんだ。暗い、海の底から。」その時、強い風が吹き、女の手から傘が離れた。

空を舞った傘はそのまま水溜まりに落ちた。女は傘を拾い、男の方を向いた。

そこには誰も居なかった。

男は3年も前に戦死していた。男の飛行機は空を舞い、海に沈んでいた。


傘はいろいろなものを引き寄せる。

これもその一つかもしれない。

fin