学長ブログ

20. 地球磁場の反転

地磁気が反転した痕跡を残す千葉県の地層が、約77万~12万6千年前の年代を代表するもので、この地質年代がチバニアン(ラテン語で千葉時代のこと)の名称がつく見通しと、11月13日の新聞各紙が報道しました。地球は大きな磁石になっていて、約46億年の地球の歴史の中で、過去に何回もN極とS極が入れ替わっており、磁力をもつ鉱物が含まれる岩石を調べて、最後に起こった逆転の時期を確定したということです。

チバニアンというネーミングが、親しみを呼び、さらに夢を膨らませてくれます。地球の歴史を思うとき、地球が太陽系の惑星の一つであり、生命の誕生は約38億年前にさかのぼることを改めて思い起こします。地質年代が確定できるのは約6億年前からで、古・中・新生代と分けられます。恐竜は中生代に存在し、チバニアンは6600万年前から始まる新生代の中のひとつの時代区分ということです。地球の歴史のスケールでは77万年前というのは、つい最近のような気がしてきます。

今では宇宙から、地球を丸ごと見られるようになりました。地球の半径は約6400キロメートルで、生命の営みは深海の深さと大気圏の厚みを含めてもほぼ15キロメートルです。大雑把に言うと、地球を直径1メートルの球と考えると、生命の活動は表面近くの1ミリに過ぎない。その下には5ミリ程度の地殻があり、そして岩石からなるマントル。マントルの上層部はマグマと呼ばれてどろどろしており、時々地表に噴出してきます。まさに私たちは、地球をリンゴにたとえれば、リンゴの皮のようなところに住んでいることになります。

リンゴに芯があるように、地球の中心のほうに核があります。核の中心部分は固体ですが、その外側は高温のどろどろした金属になっていると考えられています。ダイナモ理論として知られる考え方では、地球の自転に伴って、どろどろした金属流体の運動が電流を引き起こし、地球磁場を作ります。金属流体の運動がわずかでも方向を変えると、地球磁場の方向は変化することになります。たまたま現在は、地球自転の回転軸と地磁気の軸がほぼ同じ方向に向いているけれど、他の惑星では、様々な角度を持つ場合があること、火星や金星のように磁場を持たない惑星があることもわかっています。

カナダのサスカトゥーンに住んでいるときにオーロラがよく見られました。オーロラは、太陽から降り注ぐプラズマ粒子が地球の磁場に沿って、地球の大気に入り込み大気中の原子や分子と衝突し、そのエネルギーが光となる現象です。オーロラは北極や南極に近いところで見えることはよく知られていますが、サスカトゥーンは高緯度と言っても北緯52度。なぜそこでオーロラがよく見えたのか、考えてみました。(ちなみに札幌は43度、春日井は35度)。

コンパス(方位磁石)の針は南北を指しますが、北極に向かうにつれて、水平面で動いていた北を指す針が、下を向き、針が水平面に対して垂直になる地点は磁北極(magnetic north pole)と呼ばれています。私がカナダに住んでいたころは、磁北極はカナダの中にあったのが、今では北極に近いところに動いています。さらに地球を棒磁石と考えたときの、棒磁石の軸と地表との交点である地磁気北極(geomagnetic north pole)は30年の間に緯度で1.6度、経度で2度移動しています。

宇宙から見えるオーロラの光の帯は地理上の北極ではなく、地磁気北極を中心に存在することが衛星写真で明らかになっています。NASAの衛星が高度2万キロから撮影した地球とオーロラ帯を示し、その中でサスカトウーンの位置、北極の位置等を示しておきます。地磁気北極を中心に、光の帯を作っていることがわかります。この光の帯を地上から見るとオーロラに見えるわけです。確かに、サスカトゥーンは、光の帯に近いところにあることがわかり、だからオーロラがよく見えたことが納得できます。

地磁気極は確かに移動しています。その原因は地球の内部にある金属流体の運動ですが、その運動は未だ解明されていません。そして、チバニアンの地質年代の決め手となった磁場の反転の原因も今のところわかっていません。いつの日か、地磁気極の移動によって、日本の近傍にまでオーロラ帯がおりてくれば、日本でもオーロラが見えることになるかもしれません。一方、古くは、日本書紀、明月記などに、赤気と呼ばれるオーロラ現象の記述があります。さらに最近では1958年2月11日に日本海側沿いの北陸、東北、北海道で、火事と間違われるほどの赤いオーロラが目撃された記録が残っています。ただし、それら日本で観測されたオーロラは、長期間続いているわけではないので、磁気極の移動に伴うものではなく、太陽面の爆発を伴う太陽の異常活動により引き起こされた、オーロラ帯の拡大によるものと考えられるでしょう。

20171125-01.jpg

オーロラの光の帯(オーロラオーバル)。地理上の北極でも、磁北極でもなく、地磁気北極の周りにリング状に見える。左に見える明るい部分は昼側。緑のラインで大陸の海岸線を示している。1981年11月、NASAのダイナミクス・エクスプローラー衛星が2万キロメートル上空から紫外線撮影。
http://www-pi.physics.uiowa.edu/sai/gallery/
20171125-05.jpg