学長ブログ

2017年12月10日の記事

21. メロン

チバニアンは地球の地質年代を表す言葉でした。思い出したことがあります。チバという名前の猫のことです。学生結婚して二人でアメリカの留学を終えて、最初の職場がカナダの大学でした。留守番を兼ねて家を借りることになりました。その家にいたのが、黒と白の、気品のある顔をしたチバでした。二人とも、猫を飼ったことがなく、また特に猫が好きなわけでもなかったのですが、自由に生きるチバはなぜか好きになりました。犬は人につき、猫は家につく、と言いますが、確かにチバは家についているようでした。飼い主が変わっても、われ関せずという風な調子で、我々のそばにいました。ガレージから家に入るドアには、猫用の小さな扉があって夜中でもチバは出入り自由でした。

カナダからアメリカに移り、テキサスにいるときに、子供に児童文学斎藤洋作の『ルドルフとイッパイアッテナ(講談社)』を読み聞かせました。猫のルドルフがふるさとの中部地方を離れて東京に出てくる話です。ルドルフが猫の友達イッパイアッテナから、猫の教養について教わるのがおもしろいところです。日本に戻ったら中部地方へ行ってみたいものだと思っていました。

日本に戻ると、テキサス生まれの大学生の娘が下宿先で飼っていたメロンを、うちに連れてきました。東京では2階のベランダの手すりから、落ちたことがあります。マーク・レヴィが書いた『Why cats land on their feet (プリンストン大出版)』によると、猫は4つ足を延ばして体をよじらせて、体を回転させて着地するということです。これはスケート選手が伸ばした両手を縮めることによってくるくる回転することができることと同じ原理で、物理用語で言うところの、角運動量の保存です。ということで、メロンは2階から落ちても平気でした。

中部地方に引っ越しすることになりました。ルドルフはトラックによる移動でしたが、メロンは乗客の少ない年末に新幹線移動です。彼女は家につくのではなく、妻についているようです。私がつかまえて、だっこしてやると、しばらく私の顔をまじまじと見て、すぐに逃げていくのですが、妻には抱かれたがるのです。前足をそろえて、背筋をまっすぐにして、朝日を見ている姿は哲学者の雰囲気です。そういえば元飼い主の娘は、いまは大学院を出て哲学者の卵になっています。

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春日井に移って大好きなタワーに乗ったメロン。
朝日が出るときには前足をそろえて、窓越しに日が昇るのを見つめています。

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