学長ブログ

92. 大きな数

5月7日から全面遠隔授業で始まった春学期は、6月1日から一部の実験・実習の授業が学内で始まり、7月6日からは、さらに対面授業の範囲を拡大し、学生が学内に少しずつ戻ってきています。人口750万人の愛知県では新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が4月のはじめをピークに減少し、5月以降、週ごとに10人を超えることがなく感染者数0人の日が多くなり落ち着いてきています。

しかし、ここにきて東京都の感染者数が急激な増加を示し、感染拡大が心配されています。1日当たり過去最多の243人を記録し、200人を超える日が続いています。

一方、九州や東海地方では1週間の総雨量が1000ミリを超える観測史上最多の降雨量となり、自然災害が起こっています。テレビや新聞で甚大な被害状況の様子を見るにつけて心が痛む思いです。

過去最多、観測史上最多と言われるように、大きな数字がここ最近目に入るので、今日は数字の話をしようと思います。

ウイルスが地球上に現れたのは約40億年前。生命誕生の38億年前よりも前のことです。1億は1のあとに0が8つ並んだ数で、108とあらわします。コロナ禍で日本の赤字はさらにふくれあがり1千兆円もの借金を抱えるということです。兆というのは1012。ちなみに計算速度世界一を記録したスーパーコンピューター富岳は、1秒間に41.5京回の計算性能を持ちます。京(けい)は1016。もっと大きな数を挙げると、全人類の脳の神経細胞の数は約10垓。垓(がい)は1020。さらに、地球上にいるウイルスの数は1031(千穣)にも及ぶということです[渡辺他、ウイルス、2016]。大きな数の呼び名は億兆京垓杼穣と続き、穣は1028となります。

英国の天文学者ハリソン(E. R. Harrison)によれば、世界で最初に物理的に意味のある大きな数を考えたのは、風呂に入っているときに浮力の原理を見出したあのアルキメデスとのことです[Physics Today、1972]。紀元前3世紀の古代ギリシャのアルキメデスが、宇宙を砂粒で満たすとすれば必要な砂粒の数は1063と導き出しているのです。億兆京...と続き、1060は那由他(なゆた)、1064は不可思議、1068は無量大数と呼びます。したがって1063は1000那由他であり、0.1不可思議となります。

人の体は数十兆の細胞でできており、体内に生息する細菌は百兆を超えています。その共生している細菌は人体の免疫システムと連携して、感染症をもたらす細菌やウイルスといった病原体に対応していきます。ウイルスが体の中に入ってくるとサイトカインと言う生体物質が細胞から放出され、免疫を増強しますが、時に過剰生産されると免疫系のバランスが壊れ、病をもたらすことになります。新型コロナウイルスに対しては、サイトカインの過剰生産を抑制できずに呼吸器系が侵されて、重症化する例が出ています。サイトカインの放出・制御という免疫を強める過程と睡眠が、密接に関連しているとも言われています[上野、化学と生物、2004]。しっかりと睡眠時間を取るようにしてコロナウイルスに対抗しましょう。

世界中では現在も新型コロナウイルス感染の拡大が続いており、感染者数は1200万人、死者数は56万人を超えています。大きな数を考えながら、生命誕生の初期から生物の進化にかかわってきたウイルスとの共生に思いを巡らしています。