学長ブログ

93. ナイチンゲール

新型コロナウイルスの感染者数は世界中で1,600万人、死者が60万人を超え、国内でも感染者は3万人、死者が1,000人を超えるまでになっています。緊急事態宣言が解除され、一度は収まりかけたように見えたところが、再び感染者数が増加しており、愛知県内においても急激な増加が見られます。こうした中、中部大学では春学期も終わりに近づき、学生の皆さんには直接メール配信と、ホームページ上で、「新型コロナウイルス感染症の拡大防止の徹底について」と題して注意喚起のメッセージを出しました。

私の故郷兵庫県川西市の緑の多い花屋敷と呼ばれる地区にナイチンゲールの像があります。
フローレンス・ナイチンゲールは、クリミア戦争中の野戦病院で看護団を率いて多くの兵士を救ったことで知られています。野戦病院では多くの兵士が病室でのベッドの過密と不衛生な状況下で死んでいくのを、彼女は目の当たりにし、負傷兵が戦傷によって死亡するだけでなく、より多くの兵隊が感染症で亡くなっているのに気が付きました。彼女は、ベッドの間隔をあけ、換気に配慮し、消毒し、看護師には手洗いの徹底を指示することから始めました。今ほど細菌やウイルスの存在が明らかではなかった時代に、彼女は未知の感染症に対抗するすべを知っていたといえるでしょう。

今年はナイチンゲールが生まれてからちょうど200年。彼女が強調した衛生の概念は今でも有効に生きていて人々の間に浸透しています。

1918年から大流行したインフルエンザ(スペイン風邪)をきっかけにマスクの使用が、世界で広がっていたことが、1922年に刊行された『流行性感冒「スペイン風邪」大流行の記録』(内務省衛生局編、2008年平凡社翻刻)に記述されています。それまで鼻と口を覆うことが衛生上必要であると考えられていても、病院の手術室で感染防止のために使われていたマスクが、一般の人にも使われるようになったのはスペイン風邪の大流行の時が最初と考えられています。

私が小さいころ見ていたナイチンゲール像は、ロンドンにあるナイチンゲール看護学校の入り口にある像を原型として、昭和の初めに作られたものだそうです。ナイチンゲールの時代からすると、科学の進歩は著しく、病原体の正体がかなり解明されるようになってきたとはいえ、感染症は今なお人類を脅かす存在であることには変わりはありません。まだ治療薬やワクチンが開発されない新型コロナウイルスに対しては、マスクをして、感染しない、感染させないを心がけて、健康に過ごしたいものです。