学長ブログ

42. クーデンホーフ=カレルギー伯爵

新年あけましておめでとうございます。
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学生寮恒例のもちつき大会でつきたての鏡餅を、寮生の皆さんからいただきました。

新年早々、アメリカのコンサルティング会社「ユーラシアグループ」が、今年の「世界のリスク」を発表しました。最大の危機は、危険の種が世界中に蒔かれているという指摘です。米国で民主主義の揺らぎ、欧州で大衆迎合のポピュリズム政治の広がり、抑止力が効かないサイバー攻撃、国際協調に目を背ける指導者達というように、地政学的リスクが広がっているというのです。

ここでは世界の危機とも指摘されたEU(ヨーロッパ連合)の弱体化について思いを巡らせてみます。1991年の旧ソ連崩壊後、1993年にEUが成立、1999年には統一通貨ユーロが導入され、単一通貨は加盟19か国に拡大しています。現在、2019年3月に英国の離脱後、残留する27か国の結束が問われています。

1967年、欧州の統合を目指し、汎ヨーロッパ運動によりEUの礎を築いた クーデンホーフ=カレルギー伯爵が日本にやってきました。そのとき、世界の歴史に興味を持っていた私は、伯爵のことを書いた書物を読みあさり、私自身のその後の考え方に、大きな影響を受けることになりました。

伯爵はナチスに追われながらも汎ヨーロッパ運動を推し進め、欧州統合の理念の先駆者となった人です。オーストリア-ハンガリー帝国の外交官として東京に赴任していた父と、日本人の母の間に東京で生まれました。2度のヨーロッパを舞台にした世界大戦を経験しており、世界平和実現のためには、ヨーロッパ統合が不可欠の一歩と考えたのでした。実際彼の考え方はEUの前身であるヨーロッパ経済共同体の成立に結びついていきました。そして、再び日本を訪れたとき、平和憲法を持つ日本こそが世界平和を担うべきであると考えたようです。オーストリア共和国から名誉大銀星勲章と、日本からは勲一等瑞宝章を受勲しています。

伯爵の死後40年経った2012年、ヨーロッパにおける平和に貢献したということで、EUがノーベル平和賞を受賞しました。彼の世界平和への夢がEUという形で実を結びつつあることが認められたのです。グローバル化が進む中、ユーラシアグループが言う「世界のリスク」が「世界のチャンス」に変わることを願い、地域統合の次に、世界の統合による世界平和を夢見ていた伯爵の事を思い出していました。