学長ブログ

2019年4月の記事

46. カザフスタン

カザフスタンで30年にわたって在位した大統領が3月に任期を残して辞任し、新大統領の下で首都の名称が変更されたというニュースが伝わってきました。私がカザフスタンを訪れたのはもう10年ほど前の秋のことです。

アルファラビカザフ国立大学のプラズマ物理の教授をしている友人に、博士学生の論文審査の外部審査員として招かれたのです。大学名にあるアルファラビは、イスラムの世界ではギリシャの哲学者アリストテレスに次ぐ、有名な哲学者だという。アルマティにあるホテルの窓を開けると、目の前に天山(テンシャン)山脈が広がり、迫っていました。息を飲む美しさとはこういうものかと思ったほどです。滞在中は最高のもてなしを受けて、歓迎会に出て、いろいろなところを見る機会を得ました。

加古さとし先生の「万里の長城」にも描かれた、シルクロードの天山北路(草原の道)に位置する騎馬遊牧民族が支配したカザフスタン。アジアでは中国・インドに次ぐ広大な面積を持つだけあって、キルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、ロシアそして中国と国境を接しています。アルマティのすぐ南は、キルギスです。カザフスタンには遊牧民族の文化が残っていて、カザフスタン人には、日本人のような顔立ちをした人もいれば、ヨーロッパ人のような顔立ちの人もいました。私の友人のトレックと並ぶと、ふたりとも口ひげがあり、どちらが日本人かわからないほど。まさに他民族が行きかい、融合した世界都市といったところでした。

さて、そのカザフスタンで大統領が変わって、首都の名称が変わるという。私が訪れたアルマティは美しい旧都で、1929年から、ソ連邦から独立した1997年まで首都だったのです。遷都によって新しい首都は、カザフ語で首都を意味する「アスタナ」と名付けられたそうです。その首都の名前が、30年間統治したヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領に敬意を表して、アスタナから「ヌルスルタン」に変更したというのです。

ロシアでは指導者の名前を地名に使う例があるので、その流れに沿ったものかもしれません。なお、カザフスタンでは首都名が変わるのは過去60年で4度目にあたるということです。名前が変わるのは、歴史の激動を表すものの、落ち着かない気もします。偉大な指導者の名前が都市名になるのは、それほど特別なことでもなく、アメリカ合衆国の首都ワシントン、ベトナムのホーチミンなど例はたくさんあるようです。しかし、レーニンの名前を取ったレニングラードが、サンクトペテルブルグに変わったように、ナザルバエフ前大統領の評価が、歴史的に変わるときが来れば、また名称変更となるのかなと、カザフスタンに親近感を持つ私は思うばかりです。

1.jpg 2.jpg
ホテルの目の前の天山山脈。ラマザノフ教授の率いるプラズマ研究室グループ。
中央私の隣がトレッカブル・ラマザノフ教授。

45. 新学年の始まり

新しい学年の始まりです。学長室から見える桜も満開で、新しい息吹きが感じられます。

4月1日、朝一番で52人の新任の教職員を迎えたあと、入学式で、2,583名の学部生と134人の大学院生を迎えました。卒業式には、蕾だった桜も、入学式には間に合って、キャンパスを美しく彩ってくれました。

学部の入学式では、80周年を迎えた学園の歴史を紹介するとともに、春日井キャンパスの特徴について語りました。そこでは、作家の曽野綾子さんがキャンパスを訪れたときに書かれたVoiceという雑誌に掲載された文章を紹介しました。

「驚きは大学の構内を包む、生き生きとした緑の息づかいであった。(中略)この酸素発生器の様な森で4年間を過ごせる学生たちは幸せだと感じずにはいられなかった。東京にはろくろくスポーツをする場所もないようなキャンパスしか持たない大学も多い。この恵まれ方はなんという違いかと思う。」そして、我々のキャンパスのことを「濃尾平野の天香具山」と表現してくださいました。

天香具山(あまのかぐやま)は、奈良にある大和三山の一つで、神聖な山として信仰の対象となっています。それに対して春日井キャンパスから北東に春日井三山の弥勒山、大谷山、道樹山があることが思い起こされます。

大学院の入学式では、昨年92歳で亡くなった加古さとし先生の話をしました。大学で工学部に進み、会社に就職したあと、47歳になって退職し、絵本作家になられたのです。85歳になって『万里の長城』というユーラシア大陸を舞台にした壮大な絵本を出版されています。88歳の時、ミリオンセラーになった絵本の主人公のだるまちゃんを使って、「未来のだるまちゃんへ」を描き、子供たちに生きるメッセージを残しておられます。加古先生の話から二つのことを学生さんに話しました。一つは、人生まさに100年、長い目で自分の生き方を考えようということ。もう一つは、興味を広げて新しいことに挑戦していこうということ。

さて、春になって世界各地から便りを受け取りました。日本と同じ北半球にあるアメリカでは3月10日の日曜日、スウェーデンでは3月31日の日曜日を境に、サマータイム(Daylight Saving Time)に入ったという知らせで、季節が変わったことを感じます。日本とは季節が反対の、南米のペルーからの便りでは、夏休みも終わり、3月から新しい学年がはじまったということです。

大学も新入生の学生さんを加えて、新しい生命の息吹を感じる、活気のある春日井の丘です。

1.jpg 2-2.jpg
(左から)講堂で行われた学部入学式、メモリアルホールで行われた大学院入学式

3.jpg
学長室の窓から見える桜も満開

1