学長ブログ

48. 6度目の大量絶滅

加古さとし先生は、1981年に出版された科学絵本「すばらしい世界 わたしたちの生命」の中で、子ども達に語りかけています。

『地球の自然は、150億年かけて宇宙がきずき、50億年かけて地球が生みだし、作り上げてきたものです。地球の自然を、生命の源である海や大地や空気を、限度以上によごしたのでは、生命は死にたえ、生物は滅んでしまいます。この宇宙や地球が、光あふれる世界をきずいてきたように、これからの科学技術も、生命をまもり、たいせつにすることに、むすびついていなければなりません。生命をそこなったり、死滅する方向は、科学や技術の名に値しないものだということです。』( 現在では宇宙誕生は138億年前、太陽系・地球誕生は46億年前と考えられています)

国際的な科学者組織「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」がまとめて、UNESCO本部で採択されたグローバル評価報告書は、この5月に発表されるや否や、大きな反響を呼ぶことになりました。地球規模での総合的な評価は初めてでした。

世界の人口は1800年には10億人、1900年には16億人、そして2000年には60億人となっています。もう少し詳しく見ると、1970年の37億人から、2019年には76億人というように、世界の人口は近年、急上昇しています。それに伴って農作物の生産が増え、地球環境が人間の活動の影響を受けています。陸地も海もひどい悪影響を受けています。例えばプラスチックごみの海洋汚染は1980年以降、10倍にもなっているそうです。報告書によると、陸地の75%が人間の手で改変され、湿地は85%が失われており、海洋は66%が人間活動の影響を受けています。

世界中に推定される動植物は約800万種あって、そのうち100万種が絶滅の危機にあると報告書にあります。なかでも両生類は、40%以上が危機に直面しています。海洋哺乳類は33%以上、昆虫は約10%が絶滅の可能性があります。現在の生態系喪失の速度は、過去1000万年間の平均に比べて、10~100倍以上で、さらに加速されていると言うのです。このままでは、数十年内に多くの種が絶滅の恐れにあるとのことです。

人は自然から食料や、薬、燃料を得て生活しています。ミツバチなど花粉媒介生物の減少は、穀物生産に影響を与えつつあり、生態系の破壊やサンゴ礁の劣化で、自然災害のリスクが高まっています。動植物の多様性がなくなることは、将来の気候変動や害虫、病気の蔓延などへの耐性が減ることを意味する、と報告書は警告しています。

一方、2015年に科学雑誌Nature Communicationsに発表された論文により、現在は6度目の大量絶滅期を迎えているとの、衝撃的な指摘がなされています。地球は46億年の歴史があり、生命が誕生して38億年、多細胞生物が誕生して10億年が経ちます。そして過去5億年の間に、生物種の大量絶滅期が5度到来したとされており、5度目は約6500万年前の恐竜の絶滅によって知られています。人類の誕生は約500万年前のことです。2015年の論文によると、人類の活動による自然環境の破壊が進む現在の地球の状況では、人類を含む生物は、急激に変化する状況への適応が間に合わず絶滅する、と言うのです。つまり人類は自ら引き起こして、6度目の大量絶滅に直面していると言うのです。

加古さとし先生の1周忌で、先生の生まれ故郷福井県越前市武生にあるお墓にお参りしました(写真参照)。その時、武生の記念館で行われた「化学者加古里子」の対談会の終わりに、娘さんである鈴木万里さんがおっしゃいました。加古さとし先生が、最後まで心残りだったのは、『いまが第6の生物絶滅期にはいっており、その元凶が人間であることを、絵本に書き上げられなかった』ということでした。万里さんの言葉を聞いて、残された我々が、加古さとし先生の思いを受け継いで、経済最優先で生きていていいのか考え、地球を守るための方策を実行していかなければならないと、強く思ったのです。

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福井県越前市にある加古里子先生のお墓