学長ブログ

104. アメリカの入試事情(2)

2016年1月、ハーバード大学からの報告「流れを変える」は大学の入学選考に関して提案を投げかけました[Turning the Tide, Inspiring Concern for Others and the Common Good through College Admissions, Harvard Graduate School of Education, 2016]アメリカでは人種や貧富の差によって、大学に進学する層が限定されていることが問題になっていました。教育にお金をかけることができる家庭の子供は、共通テストのスコアを上げることによって入学許可を得るため、大学における多様性が確保できていない、ということで問題提起したものです。

入学選考に際しては共通テストを使うのではなく、志願者のこれまでのエシカル・エンゲージメントとインテレクチュアル・エンゲージメントを見るべきと提案されています。ethical engagement、intellectual engagementのエンゲージメントという言葉は、積極的にかかわり責任を果たすという意味で使われています。選考において、社会活動を通した社会性と知的活動を通した基礎学力を評価することによって、他人に対する思いやりや地域に対する責任感といったものを重視するべきと主張しています。

これまでテストの点数で示される学力だけが、大学入学の資格として求められると考えていた受験生に、メッセージを出すことで、社会の流れを変えることができると報告されています。

報告書の影響は大きく、2019年3月にハーバード大学の報告「流れを変えるII」が出るころには、全米の約2300ある4年制大学の半分以上が共通テストのスコア提出を任意にするとしています。

今年9月のCNNニュースによると、カリフォルニア州の裁判所が、カリフォルニア大学の入学選抜は共通テストの得点によるべきではないという判決を出すまでになっています(CNN、2020.9.2)。そして11月のハーバード大学の入学選考を巡る裁判で、総合評価(学業の優秀さ以外の幅広い選考基準)を用いることの正当性が認められました(New York Daily News、2020.11.12)。

コロナ禍の影響で、アメリカの4年制大学の3分の2が共通テストのスコア提出は任意であるとしました。まさにコロナ禍が「流れを変える」報告の提言を後押しした格好になっています。

アメリカでは高等学校の成績、課外活動、小論文、推薦状、面接等を使っての選考が行われます。入学後は、単位認定が厳格であるために、授業についていけないと結局卒業できないことになるので、志願者の大学選びも慎重になってくるようです。アメリカの入試事情が、これからの日本の入試の在り方を考える参考になるように思います。