学長ブログ

105. 地球に届いた玉手箱

小惑星探査機はやぶさ2は、小惑星リュウグウで採取した砂の入ったカプセルを地球に投下しました。カプセルは大気圏に突入後火球となり、南十字星を背後に上空で30秒間にわたり尾を引いて、オーストラリアの砂漠に落下しました。その後、はやぶさ2は直径約30メートルの小惑星に向けて飛行を継続しています。コロナ禍で世界中が混乱した1年の終わりに、地球に夢のような玉手箱(カプセル)が届いたという嬉しいニュースでした。

過去に地球に落下した隕石からアミノ酸が見つかっていることから、カプセルが持ち帰った砂の中に有機物が含まれていれば、生命誕生の秘密につながることが期待されます。一方で、はやぶさ2が次に向かった小惑星は、将来地球に衝突する可能性があるといわれています。

そのようなニュースを見ながら、中学生の頃に見た映画のことを思い出しました。地球に降り注ぐ満天の流星雨を見た多くの人が失明し、流星とともに宇宙からやってきた動ける食肉植物に人類が襲われるという内容でした。ショッキングな映像に恐怖を感じたことを今でも覚えています。

映画の話はともかくとして、実際に他の星から動植物を持ち込ませない惑星検疫という考え方は宇宙開発に伴ってでてきているそうです。またこれまで地球には何度も小惑星が衝突しています。有名なのは約6500万年前の恐竜絶滅をもたらした天体衝突。地球上には天体衝突によりできたと考えられるクレーターがいくつもあります。

火星と木星の間には小惑星帯があり、数十から数百万の小惑星があると考えられています。小惑星リュウグウは大きな惑星が小さく砕かれて、小惑星帯から地球近傍へと軌道が変化したものと考えられています。このように地球に接近する軌道を持つ小惑星が、地球に衝突する可能性があります。小惑星リュウグウは1999年に発見されましたが、まだ見つかっていない小惑星がたくさんあるようです。小さな天体が地球に衝突した時に見えるのが流れ星です。地球はいつも小惑星が衝突する危険にさらされているといえるでしょう。

地球規模の生物の絶滅に至るような大きな小惑星の衝突は1億年に1度の頻度かもしれません。しかし、その100分の1の大きさの小惑星が衝突する確率は数百年に1度だともいわれており、被害もかなり大きなものとなります。

ペルーにあるインカ帝国が残した巨大なモライ遺跡は、隕石の衝突によって作られたクレーターの後を利用したものだともいわれています。私が撮影した写真を見れば、想像できるかもしれません。

はやぶさ2が示したように人類は優れた科学技術を持っています。その技術をもってすれば、将来起こりうる天体の衝突を避けることができることでしょう。そうした優れた技術は多方面で応用され、私たちの生活を豊かにしています。その希望が、現在進行中のコロナ禍にも適用されることを祈るばかりです。

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インカ帝国の首都だったクスコの近くにあるモライ遺跡。
インカの食生活を支えるための、農業試験場として使われていたと考えられています。2019年12月末撮影。