学長ブログ

2020年12月の記事

105. 地球に届いた玉手箱

小惑星探査機はやぶさ2は、小惑星リュウグウで採取した砂の入ったカプセルを地球に投下しました。カプセルは大気圏に突入後火球となり、南十字星を背後に上空で30秒間にわたり尾を引いて、オーストラリアの砂漠に落下しました。その後、はやぶさ2は直径約30メートルの小惑星に向けて飛行を継続しています。コロナ禍で世界中が混乱した1年の終わりに、地球に夢のような玉手箱(カプセル)が届いたという嬉しいニュースでした。

過去に地球に落下した隕石からアミノ酸が見つかっていることから、カプセルが持ち帰った砂の中に有機物が含まれていれば、生命誕生の秘密につながることが期待されます。一方で、はやぶさ2が次に向かった小惑星は、将来地球に衝突する可能性があるといわれています。

そのようなニュースを見ながら、中学生の頃に見た映画のことを思い出しました。地球に降り注ぐ満天の流星雨を見た多くの人が失明し、流星とともに宇宙からやってきた動ける食肉植物に人類が襲われるという内容でした。ショッキングな映像に恐怖を感じたことを今でも覚えています。

映画の話はともかくとして、実際に他の星から動植物を持ち込ませない惑星検疫という考え方は宇宙開発に伴ってでてきているそうです。またこれまで地球には何度も小惑星が衝突しています。有名なのは約6500万年前の恐竜絶滅をもたらした天体衝突。地球上には天体衝突によりできたと考えられるクレーターがいくつもあります。

火星と木星の間には小惑星帯があり、数十から数百万の小惑星があると考えられています。小惑星リュウグウは大きな惑星が小さく砕かれて、小惑星帯から地球近傍へと軌道が変化したものと考えられています。このように地球に接近する軌道を持つ小惑星が、地球に衝突する可能性があります。小惑星リュウグウは1999年に発見されましたが、まだ見つかっていない小惑星がたくさんあるようです。小さな天体が地球に衝突した時に見えるのが流れ星です。地球はいつも小惑星が衝突する危険にさらされているといえるでしょう。

地球規模の生物の絶滅に至るような大きな小惑星の衝突は1億年に1度の頻度かもしれません。しかし、その100分の1の大きさの小惑星が衝突する確率は数百年に1度だともいわれており、被害もかなり大きなものとなります。

ペルーにあるインカ帝国が残した巨大なモライ遺跡は、隕石の衝突によって作られたクレーターの後を利用したものだともいわれています。私が撮影した写真を見れば、想像できるかもしれません。

はやぶさ2が示したように人類は優れた科学技術を持っています。その技術をもってすれば、将来起こりうる天体の衝突を避けることができることでしょう。そうした優れた技術は多方面で応用され、私たちの生活を豊かにしています。その希望が、現在進行中のコロナ禍にも適用されることを祈るばかりです。

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インカ帝国の首都だったクスコの近くにあるモライ遺跡。
インカの食生活を支えるための、農業試験場として使われていたと考えられています。2019年12月末撮影。

104. アメリカの入試事情(2)

2016年1月、ハーバード大学からの報告「流れを変える」は大学の入学選考に関して提案を投げかけました[Turning the Tide, Inspiring Concern for Others and the Common Good through College Admissions, Harvard Graduate School of Education, 2016]アメリカでは人種や貧富の差によって、大学に進学する層が限定されていることが問題になっていました。教育にお金をかけることができる家庭の子供は、共通テストのスコアを上げることによって入学許可を得るため、大学における多様性が確保できていない、ということで問題提起したものです。

入学選考に際しては共通テストを使うのではなく、志願者のこれまでのエシカル・エンゲージメントとインテレクチュアル・エンゲージメントを見るべきと提案されています。ethical engagement、intellectual engagementのエンゲージメントという言葉は、積極的にかかわり責任を果たすという意味で使われています。選考において、社会活動を通した社会性と知的活動を通した基礎学力を評価することによって、他人に対する思いやりや地域に対する責任感といったものを重視するべきと主張しています。

これまでテストの点数で示される学力だけが、大学入学の資格として求められると考えていた受験生に、メッセージを出すことで、社会の流れを変えることができると報告されています。

報告書の影響は大きく、2019年3月にハーバード大学の報告「流れを変えるII」が出るころには、全米の約2300ある4年制大学の半分以上が共通テストのスコア提出を任意にするとしています。

今年9月のCNNニュースによると、カリフォルニア州の裁判所が、カリフォルニア大学の入学選抜は共通テストの得点によるべきではないという判決を出すまでになっています(CNN、2020.9.2)。そして11月のハーバード大学の入学選考を巡る裁判で、総合評価(学業の優秀さ以外の幅広い選考基準)を用いることの正当性が認められました(New York Daily News、2020.11.12)。

コロナ禍の影響で、アメリカの4年制大学の3分の2が共通テストのスコア提出は任意であるとしました。まさにコロナ禍が「流れを変える」報告の提言を後押しした格好になっています。

アメリカでは高等学校の成績、課外活動、小論文、推薦状、面接等を使っての選考が行われます。入学後は、単位認定が厳格であるために、授業についていけないと結局卒業できないことになるので、志願者の大学選びも慎重になってくるようです。アメリカの入試事情が、これからの日本の入試の在り方を考える参考になるように思います。

103. アメリカの入試事情(1) 

新型コロナウイルスの感染がアメリカでも拡大する中、中部大学の協定校であるオハイオ大学に長期研修で滞在中の33名の学生と1名の引率教員に、帰国を促すメールを送ったのが2020年3月16日のことです。アメリカでは3千人を超える新型コロナウイルス感染者が出て、死亡する人も毎日増加している頃でした。

3月23日、簡素化した学位記授与式を終えて中部国際空港に向かい、到着ロビーで帰国した34名全員を出迎え、みんなの無事な姿を見たときには出迎えた家族の方と共に安堵したものです。その3月23日にはオハイオ州で外出禁止令が出されましたので帰国は間一髪のタイミングでした。

あれから9ヶ月、アメリカの状況はさらに深刻になり、毎日約20万人が感染し、3千人が死亡しています。現在累計感染者数は約1700万人となり、死者も30万人となっています。日本の累計感染者17万人、死者2500人と比べると、その悲惨な状況が分かります。私のテキサスの友人が新型コロナウイルス感染症で亡くなったとの知らせが届き、その怖さが身近に感じられます。

現在アメリカの大学は殆どがオンライン授業を行っています。

また、大学入学のために行われるACT、SATと呼ばれる2種類の共通テストが、通常は1年間にそれぞれ7回程度行われるのですが、今年は感染拡大の影響で多くの会場で延期または中止となっています。ついには多くの大学で、その共通テストのスコアを求めずに願書を受け付けるという事態となっています。アメリカの大学では個別の学力試験は行っていないので、共通テストの点数を使わずに入学選抜をすることになります。

一方、来月行われる日本の大学入学共通テストは53万5千人が受験します。1年に1回だけなので、その実施を巡っては今も広がる感染症の拡大に注視が必要です。大学入試においては公平・平等そして公正が求められます。受験生の努力が無駄にならないよう、感染防止策をとって、無事に大学入学共通テストが行えることを願っています。

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