学長ブログ

107. 遠隔/対面 これからの授業

1月も終わりに近づき、大学は学年末に向かっています。春学期は遠隔授業を導入して始まり、徐々に対面授業の対象講義を増やし、秋学期には遠隔授業と対面授業をほぼ半々にして開講しました。春・秋学期に実施した遠隔授業についてのアンケートを見ながら、今後の授業運営について考えを巡らします。

学生にとっては、戸惑いながらも遠隔授業に取り組み、自ら問い学ぶという、学問に対する姿勢を考えるきっかけとなったのではないでしょうか。ICTを活用して、オンラインでの質問・グループワーク・コミュニケーションの方法も貴重な経験となったようです。

遠隔授業と一口に言っても、講義がバーチャルになる同時双方向型のもの、講義資料や音声解説付きの教材をネット上に置いて、学生は好きな時間に視聴することができるオンデマンド型のものなどがあります。また、前もってオンラインで講義資料を提供し、対面では議論や質問に答えるという反転授業のように、遠隔と対面を組み合わせたハイブリッドの授業もあります。

学生の評価が大きく分かれたのはオンデマンド型の授業で、じっくり講義内容を学ぶことができると言う声や、資料だけでは授業を受けた気がしないという声も出ています。教員にとっては、授業形態に工夫を重ねる年となったようです。

まだ収まらないコロナ禍で、今後は対面・遠隔を組み合わせるハイブリッド型授業も拡がっていくことでしょう。そこで私がアメリカで留学生として、そして教員として大学に勤務して経験したことと、帰国後2000年代から導入されているハイフレックス授業について紹介します。

アメリカの大学院で学んだ頃(1970年代)、夜に開講される授業は、別のキャンパスとテレビ画面で結び、2カ所で同時に講義が進行していました。私は対面で授業を受けていましたが、教授はテレビ画面の向こうにいる受講生にも話しかけていました。録画したものを別のキャンパスの授業で使い、TA(teaching assistant)が質問を受け付けるということも行われていました。

その後、自分が教員となり、学生は授業の中で質問することを通して、問題の本質に迫り成長していくことを、身をもって知ることになりました。1980年代後半から90年代になると、遠隔地とネットワークで結んでの講義が試みられました。コンピュータの普及と共に、伝統的な教育に囚われない「オルタナティブスクール(alternative school)」(もう一つの学校)が、普及していった頃でもあります。生徒は好きな時に、好きなだけコンピュータの前に座り、録画された内容を学んでいました。教員は質問を受け、生徒の声に耳を傾けるのが役割でした。

2000年代になると、ネットワーク環境の進展に伴い、遠くに住む学生や、働く学生、障害のある学生などを考慮して、「ハイフレックス(HyFlex、Hybrid-Flexible)」と呼ばれる授業形態が普及してきました。どんな授業形態においても、学生は先生と意見交換ができる状態であることが大切なことです。受講者が大人数の場合にはTAが助けに入っていました。

ハイフレックスは、対面、オンライン同時中継、そしてオンライン配信されるもので、学生はいずれによって受講するかを前もって選択することができます。対面とオンラインを取り入れたハイブリッド授業より、さらに柔軟性(flexibility)があるといえます。これによって、アメリカの大学では社会人の学びの門戸が、さらに広がったように感じます。今後、日本で感染がまだ収まらない状況においては、あるいは収まった後でも、対面、オンライン、ハイブリッド、ハイフレックスといろいろな形態での授業展開が考えられることでしょう。

コロナ禍における高等教育の在り方が問われる中、新しい授業形態に適応し、より学びを深める者、適応できなくて取り残される者が生まれる可能性があります。

経済用語でK字型という言葉が使われています。上向きと下向きが離れていく「K」の形になぞらえた二極型のことですが、K字型の教育格差が生まれないようにしなければなりません。学びの在り方に関しては、チェックマーク「✔」のように、皆が上向く新たな学びの展開に繋がるように、教職員・学生と一体となって取り組んでいきたいと思っています。