学長ブログ

109. ウロボロスの蛇

梅の便りも聞こえてくる、立春に次ぐ二十四節気の二つ目である「雨水(うすい)」の2月18日の朝、窓の外は真っ白な雪に覆われていました。雨水と言えば、雪も雨や水に変わり春の気配を感じる季節。ところが日本各地では暴風雪あり、気温が異常に上がる地方があり、さらに欧米では大寒波、ヒマラヤの氷河の崩壊といったニュースからも地球規模での気候変動を感じるところです。

温暖化ガス排出量を減らそうと、低炭素世界への移行や脱炭素社会、ゼロエミッションの実現が言われています。今日は炭素に思いを巡らせてみます。

138億年前、宇宙創成のあと原子ができて物理学で扱う世界がはじまり、原子が集まって分子ができると化学の世界の始まりです。46億年前には太陽系や地球の誕生、そして38億年前に地球上に生命が誕生し、生物学の始まりです。炭素は物理学と化学と生物学を結びつけるものです。

宇宙を構成する主要な元素は、H(水素)、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)とヘリウムであり、生物を構成するのもH、C、N、Oの4つの元素が大部分を占めています。

生命体の中では、DNA、筋肉、骨などが炭素を骨組みとして構成されています。大学時代に聞いたドイツの化学者ケクレの夢のことを思い出しました。19世紀のこと、ケクレは炭素の結合についての研究をしていました。研究の合間に出かけた動物園で蛇を見て、その晩、夢で自分の尻尾にかみついて丸くなっている蛇の夢を見たのです。それで炭素が鎖状につながり丸く閉じた形となることを思いついたのです。亀の甲として知られる、六角形の構造をした環状構造の分子ベンゼンの着想です。それまでの枠組みの限界を突破し、有機化学という新分野の始まりです。

自分の尾を飲みこんでいる蛇は、ギリシャ神話にも登場する「ウロボロスの蛇」(ギリシャ語でウロはしっぽで、ボロスは呑み込む)として知られており、始まりも終わりも無い完全なものの象徴と考えられています。最近うちのネコは私の仕事用の椅子が気に入って、横取りして気持ちよさそうに寝ていることが多く、私は簡易椅子で机に向かうことが多くなっています。そのネコが時に自分のしっぽをくわえて、くるくると回転して遊ぶことがあるのですが、うちのネコは「ウロボロスの猫」というところでしょう。

人間は酸素を取り入れて、二酸化炭素を吐き出す一方、植物は空気中の二酸化炭素を取り入れて、酸素を生成します。また有機物は燃えると無機物の二酸化炭素を発生します。空気中の二酸化炭素の濃度は、理科年表2021によると工業化(1750年)以前には278ppm(ppmは大気中分子100万個の中にある対象物質の個数)だったのが、現在は410ppmであり年々増加しているそうです。

太陽からくる可視光は昼間地表を温め、夜になると大気の外に赤外線として熱が放出されます。赤外線は大気中のCO2により吸収されるため、空気中にCO2が増えすぎると赤外線が大気外に出ることができず、地球から熱が逃げないため、地球の温度が上昇することになるのです。地球温暖化と気候危機のメカニズムです。

炭素は生命体の構造を作るうえで、重要な元素であり、二酸化炭素も地球上の生物にとっては重要なものです。生物が太陽の恩恵を受けて生活しているところは、地表面を中心に大気圏と水圏の限られた場所で、直径13000kmの地球の表面の数10kmというほんの薄い層です。想像してみてください。地球を直径1mの球と考えれば、生物が存在できるのは表面のほんの数ミリのところです。

地球表面の薄い層を占める自然の中で、生物の仲間の一員としての人間は自然の一部で有り、地球環境をそして資源を大切にして、まさに循環型の社会にする必要があるでしょう。ちょうどウロボロスの蛇に象徴されるように、すべての生物がつながっていて、利用する資源も循環を続けられるように。

20210220-01.png
ウロボロスの蛇