学長ブログ

14. 夏の終わり(2) 竜巻

ドロシーは犬のトトと一緒に不思議の国オズにいき、そこで魔法使いと出会います。「オズの魔法使い」で、ドロシーとトトを不思議の国に連れて行ったのは竜巻でした。今日は夏の報告とともに竜巻の話題です。

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8月7日立秋の日に、台風5号によって、大荒れの天気となった東海地方(天気図[1])。愛知県では午前11時から午後10時まで、5度にわたって竜巻注意情報が出され、春日井市では一日中断続的に、雷注意報がでていました。午後4時半ごろ、豊橋で竜巻被害が伝えられました。春日井では、夕方雷と稲妻がひどくて、慌ててコンピュータの電源を落としたら、その後再起動時にエラーが出て、コンピュータをもとの状態に戻すのに、大変な時間を使う羽目になりました。

8月9~11日はオープンキャンパス。11日は雨に降られましたが、それでも3日間で9300人来学(写真)。入学センターが中心になって、教員、職員と学生、そして中部大学マスコットのちゅとらがおもてなし。まさに中部大学ファミリーが総出で高校生を歓迎している気がしました。

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高校生が熱心に聞き入る模擬講義。オープンキャンパスでは、ちゅとらが大活躍。

8月18日。真夜中近い23時35分。スマホに緊急警報の知らせ。避難勧告。この日春日井市は朝から不安定な天気で、怪しげな空模様と大雨が続く。豪雨となり、東濃地方で庄内川の上流にある土岐川の水量が増え、庄内川が増水して氾濫寸前までいきました。情報に気を付けながらも、日付変わって午前0時40分、大雨警報・洪水警報と春日井市の一大事が続く。ようやくすべての勧告、警報が解除されたのは19日午前4時32分。18日0時から19日午前4時までの28時間に、春日井市近辺で雨量は200ミリを超えたそうです。日本海および日本列島の東にある低気圧に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が不安定となり豪雨がもたらされたのです(天気図[2])。愛知県西部では午前中に一度竜巻注意情報が出て、その後午後8時半以降真夜中まで何度も竜巻注意情報が出されていました。

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この夏日本中、豪雨に見舞われるところが多く発生しました。ところによっては竜巻も発生しています。どうして日本でも竜巻が発生するのだろうかと思って、ここでテキサスの竜巻の話をすることにします。私の住んでいた地域は、竜巻でよく知られていたのです。

まず私がスケッチしたアメリカの地図を見てください。アメリカは面積が日本の25倍あり、南部にあるテキサス州だけでも日本の1.8倍あります。アメリカ大陸は海に囲まれています。西に太平洋、東に大西洋、南にメキシコ湾があり、そして北には北極海があります。大陸の中では海岸沿いに南北に延びる二つの大きな山脈によって特徴付けられています。西にロッキー山脈、そして東にアパラチア山脈です(図)。南北に位置するメキシコ湾と北極海、そして二つの山脈が竜巻発生に大きな役割をしています。竜巻発生はロッキー山脈の東、アパラチア山脈の西側に集中しています。

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私が住んでいた西テキサスにあるラボック市は、春になると必ず短時間の豪雨を伴った竜巻に襲われていました。竜巻街道(Tornado Alley)と呼ばれるところに位置しているのです。1970年5月には、市が壊滅的な打撃を受けています。竜巻が市の中心部をなめるように移動して壊滅させたのです。竜巻スケールはF5(住家は跡形もなく吹き飛ばされ、自動車、列車などがもち上げられて飛行する)だったそうです。竜巻の規模を表すために発生した被害の状況からFスケールが使われます。気象庁によると日本ではこれまでにF4(住家がバラバラになって辺りに飛散し、列車が吹き飛ばされる)以上は観測されていないということです。

その後レーダーを使って雨雲の動きを観測することができるようになり、竜巻予報が出るようになっていました。テレビ画面の左下コーナーに小さな記号が現れるのです(図)。雨雲が現れて、猛烈な雨と雷を伴う嵐が来るときは黒雲の下に稲妻のマークがでて、雷を伴う嵐(severe thunderstorm)に注意。そして竜巻が起こる条件がそろった場合には、竜巻マークが現れます。白塗りの竜巻印は竜巻注意報で、竜巻印が真っ黒になると竜巻警報です。警報が出ると、もうどこかに身を隠さなければなりません。外にいるときに突然黒雲が現れて、辺りが暗くなり、黒というより、恐ろしくて汚い緑色を帯びたような黒雲が見えたら、竜巻が空から下がってきて地上に到達(タッチダウン)する可能性大です。

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春になると、メキシコ湾で暖められた湿った空気がロッキー山脈に沿って北上し、一方北極海からカナダを通って、ロッキー山脈に沿って南下してくる冷たく乾いた空気とぶつかり合うのが、我々の住む西テキサスのあたりだったのです。竜巻の発生メカニズムはまだ完全には解明できていない状況ですが、テキサス工科大学で行った講義で使った図を使って、豪雨を伴った竜巻が生まれる様子を説明してみます。

湿った暖かい空気が、乾いた冷たい空気とぶつかり合うところで、湿った暖かい空気が急激に上昇することにより、温度の低下が起こり雲ができ、発達した雲は短時間で巨大な積乱雲となります(図参照)。積乱雲のてっぺんは上空20kmにも達することがあります。通常の雨雲は数百メートルですから、その高さはとてつもないものです。そして雲の中で、風が一様でなく吹いていると、回転を始めることがあり、地上では上昇した分の空気を補うように周辺から空気が吸い上げられていきます。スーパーセルと呼ばれる特別大きな積乱雲の中では、上下の風向差が円筒状の渦を作りだし、細長い風の渦が上昇気流によって不安定となり、細長い円筒が折れて、円筒の先端が漏斗状になって地面に向かって伸びて来ることがあります。いわゆるタッチダウンによって、地上の家や自動車までもが吸い上げられていくことがあるのです。ピンポイントで、狙ったものだけが吸い上げられていくようで、ここにオズの魔法使いの話ができる素地があります。

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ここで、春日井市の夏に話を戻します。8月7日、台風接近時15時の天気図と、18日15時の天気図を、再び見てみましょう。アメリカ大陸で起こるような竜巻が発生する条件が整ったのでしょうか。

7日は日本の南にある台風が、暖かくて湿った空気を北に向かって運んできて、北海道の東にある乾いた冷たい空気を含んだ低気圧とぶつかりそうな気配です。18日15時の天気図によれば、やはり、日本の南にある湿った暖かい空気が、日本海および日本列島東に位置する乾いた冷たい空気を運ぶ低気圧とぶつかりそうです。7日、18日とも空気の流れが、日本列島に沿って、南から暖かく湿った空気、北から冷たく乾いた空気のぶつかり合いとなっているように思えます。まさにアメリカ大陸でいつも春先に起こっていたような竜巻現象が起こる条件が作られているようです。そうすると日本列島自身が、まるでアメリカ大陸におけるロッキー山脈のような働きをして、日本列島に沿って南から来る湿った暖かい空気と、北から降りてくる乾いた冷たい空気がぶつかり、その結果日本列島の海岸沿いが竜巻に襲われたのかもしれません。もし湿った暖かい空気と、乾いた冷たい空気が日本列島の西側でぶつかれば、日本列島の西側海岸沿いに竜巻は、同じように起こるかもしれません。

地球温暖化に伴って起こる、太平洋海域の温度上昇は、暖かく湿った空気を大量に作り出し、これまで起こっていた自然現象を、とてつもないスケールに広げているように感じるところです。

追記:このブログを書いてから、アメリカでもこれまでにないハリケーンが大きな被害をもたらしていたのでここに付け加えておきます。8月27日、ハリケーン「ハービー」はテキサス州を襲い、ヒューストン周辺では24時間に610ミリの雨を降らせ、ヒューストンの大半を水に浸からせるという未曾有の洪水を引き起こし、米史上で最も経済被害が大きいハリケーンの一つといわれています。しかし9月10日にフロリダ州を襲ったハリケーン「イルマ」は、ハービーを上回り、複数の都市で洪水、大規模な停電を引き起こしていると伝えられています。